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2014年6月12日 (木)

プロ、クリエーターに無償(ギャラなし)で仕事依頼する風潮について

本日twitterにこれを書いたらたちまちリツイートの数が100を超え、今も増え続けている。

「モノには原価があるけど 技術はタダでしょ。こういう発言を実際見たことがある。日本からこの風潮がなくならない限り閉塞状況は続くと思うしどの面下げてクールジャパンだ、ということになる。■どうしてプロに無償で仕事依頼しちゃダメなのか::

どうも昨今ネットではこの話でもちきりらしい。当ブログでもこういう記事を書いた。

■コンテンツー形のないものにお金を払いたがらない日本人ー文化程度の低さ、文明国家とは到底いえないコンテンツに対する意識
https://kyojiohno.cocolog-nifty.com/kyoji/2014/02/post-1031.html

この記事の中でもtwitter経由でこのような情報が入ってきた

サイバーエージェントはイラストを作家に依頼した際、ギャラの事を聞かれて「そんなことより、XXさんには夢とか無いんですか?有名になりたいとか名前を
売りたいとか」とか言いだして、ギャラのことをうやむやにしようとしたそうで、すげえなと思いました いい根性の会社だと思います
 

上記の記事があれだけリツイートが多いというのは実際問題として同じようなシチュエーションを経験している人が多いということだろうか?

■どうしてプロに無償で仕事依頼しちゃダメなのか:http://d.hatena.ne.jp/goto-ahiru/touch/20130207/1360241556

私もサラリーマンを経験した時代があったが、サラリーマンにはサラリーマンなりの大変さがあるのがわかるが、それでもサラリーマンは変な話「天から給料が降ってくる」立場で極端な話別に仕事をしなくても困らない。しかし私のようなフリーランスは一時間一時間が直接生活にかかってくるため、そういうわけにはいかない。我々はサラリーマンと違って「時間」とその技術を売って生活しているのである。

一方、先日の記事では批判してしまったが、つぶやきかさこさんの有名な記事があるがこれが昨今の事情を言い当てている

サラリーマンは自営(フリー)の気持ちがわからない
http://kasakoblog.exblog.jp/15108812/

実際問題として「サラリーマンの担当者」の中にはプロやクリエーターが"技術"をお金に変えて生活しているということを理解できていない人が少なくない。上記の記事の中で"技術"を無理やりモノに置き換えて例えると、

八百屋さんに「このリンゴ、タダでちょうだい」とか
「今日の買い物分、全部タダにして」と言っているようなものです。
場合によっては、「数日分の買い物をタダにして」位のこともあるかも。

さらに「ここの店はタダでくれるよー!って宣伝してあげるね」と

いかにおかしなことを云っているかわかるであろう。

"手に職系"技術者は一般的な雇用と異なり、時間+αによってその職業が成り立っています。
この+αこそが、その人ならではの"技術"。

このことを理解できない人間が本当に多い。

モノには原価(仕入れ値)があるんだよ。
"技術"はタダでしょ。ちょっとやってくれてもいいじゃん!!

こういう発言を実際本当に目の前でしている人間を見たことがある。
結構有名な会社(はっきりいうがベンチャー系にものすごく多い)の人間で平気でこういうことをいう奴が多い

しかしこの記事

ギャラを言わずに仕事を頼む会社は要注意
http://kasakoblog.exblog.jp/15191248/

これらを見ると単なる「コンテンツ」とか「ノウハウ」はタダでしょといった短絡的な観点だけではない日本社会、しいては日本人自身の国民性に関わる問題があるように思える。

私は日本とアメリカ両方の社会を知っているので、いい悪いは別としてアメリカと日本の社会の体質はある意味水と油であることがわかる。だからいわゆるIT系やエコノミストの中によくいるエセグローバリスト連中のいう、アメリカはこんな素晴らしいシステムなのに日本がこうなっていないのはおかしい、などといった論調には激しい違和感を覚える。これは両国のローカライゼーションの特質を無視した議論であり、日本がアメリカ社会と同質の社会になるべきだ、などという議論は全くのナンセンスである。

アメリカはよくも悪くも契約社会であり、ビジネスのことになると徹底的にドライである。それはメジャーリーグを見ればわかるが、どんなにファンやチームメイトに愛されている選手でも契約その他の事情で他のチームにトレードに出されるなどということは珍しくない。どんなに親しくても、ビジネスはビジネスというきちんとした線引きが良くも悪くもできている。

一方日本は「情」というものが人間関係に大きなウエートを持っている。それが日本の情感、風情さまざまなところに影響している。友人や親戚が困っていたら損得に関係なく助けてあげるという風潮がある。そのため「お金の話をするのはいやらしい」という雰囲気がどこかにある。そのためギャラ、納期といったビジネス上一番大事な情報がウヤムヤにされた状態で仕事がスタートするケースが少なくない。それが悪い方向になるといわゆるナアナアの関係になってしまう。そうすると「友達だから」「ちゃちゃっとテキトーでいいから」などを理由に無償で頼むなどということが横行することになる。そしてその日本人の「情」というものが地域のボランテイア活動、組織の方まで拡大するともっとやっかいなことが起きる。

故やなせたかし氏が「ボランテイア」意識で全国のゆるきゃら200以上を無償で書いていたのは有名な話だが、それらの多くは「地方公共団体なので金がない」とか「町おこしにご協力を」とかなんとかいいくるめてタダ働きさせたようだが、それを気軽に受けたやなせ氏も問題あるものの、当たり前のように頼んでくる地方公共団体も酷いものである。

だいたい作家に頼むときに「あなたには地域愛がないんですか? 地域に無償で貢献したいとは思わないんですか?」とかさっきのサイバーエージェントの例のように「あなたには夢がないんですか?」などといってギャラの話をさせない、ギャラを払わない、などという行為ははっきりいわせてもらえば 恐喝、脅迫そして詐欺行為と同じである。上記のやなせ氏のケースでいえば地方公共団体がそういう犯罪行為を何の疑問ももたずにやっていたことになる。これはやはり恥を知れ、といわざるを得ない事例である。

勿論制作予算というものがあり、それが十分なものでないケースはよくある。その場合は事前にクリエーター、プロにきちんと説明し、今回は十分なギャラでなくても別の仕事でそれを返すように配慮する、などといったことをやるべきである。

私もよく「タダで曲を書いてくれ」と頼まれることがある、ひどい場合は知り合いでも何でもない人間から頼まれたことすらある。(はっきりいって非常識にも程がある) 云うまでもなくそういう仕事は絶対に受けない。(実はギャラがないというのは「仕事」ですらない)

絶対に受けないのは別に金もうけ主義ー守銭奴(笑)だからそういっているのではない。私は結構自分の仕事の対価で多くの企業、クライアントさんからお金をいただいているが、そんな無償の仕事を受けてしまったら私の能力を評価して私の仕事の発注を下さるクライアントさんに対して失礼にあたるからだ、

プロの"技術"をタダにさせるというのは、その人がその業界で生きていくのに大事なものを軽んじる行為なだけでなく、業界全体にまで影響を及ぼしかねないことなんです。
無償や低価格でも引き受ける人がいることが広まったら、業界内での買い叩きも起こりかねない。
だから、あくまで「親しい間柄」で「特別な場合」に「好意」でする場合を除いて、プロの技術者は無償で仕事することを好まないのです。

私このブログを読んでいる人が私の音楽、曲についてどう評価されているかは知らないが、少なくとも私をプロフェッショナルとして評価し、仕事の依頼を下さる方がいらっしゃる以上そういう人たちの礼を失する行為は絶対にしてはならない。またそのことによって私以外の音楽プロフェッショナルの評価も結果として下げてしまうことになるのである。だから余程の正当な理由もなくプロとして無償の仕事を請け負うというのはやってはならないし、依頼する人もたとえ友人だろうが親戚だろうがそういう依頼はしてはならないのである。


またプロだからって、否。プロだからこそ、「ちゃちゃっとテキトーに」なんてできないんです。
プロとしてのプライドなどもありますが、いい加減なものが自分の仕事として広まるのは、その"技術"が売り物だけに避けたいのです。
だから好意の無償仕事であっても、殆どの方が有償の仕事と変わらない仕事をしていると思います。

そうプロである以上、どんな仕事でも手を抜くわけにはいかないんだよ。極端な話をすれば100万の仕事も5万の仕事も手間的にはそんなに変わらないのだ。え? と思うかもしれないがそれが現実なのだ。プロとして生きている以上どんな仕事も手を抜くことはできないのである。

つまり少なくとも、クリエーター、プロフェッショナルに何か仕事を頼もうと考える場合には日本的な「情」の要素、ナアナアの要素は絶対に持ち込まないで欲しい。ということだ。ボランテイア的な活動を一切否定するものではないが、それはあくまでクリエーター、プロの自主的な意思に基づいたものでなくてはならず、決して何等かの形での強要や本人の意思とは違う形でそれが行われてはならない。

アメリカ的な契約社会の全てがいいというつもりはないが、少なくともフリーランス、クリエーター、プロフェッショナルに仕事関係で接触する場合はビジネスはビジネスという形で徹底していただいた方がいい。

それがどうしてもできない人は、少なくても仕事関係の方面でフリーランス、クリエーターの関係者とおつきあいをすることはやめていただきたい。

日本からこの風潮がなくならない限り日本の閉塞状況は続くと思うし、そういう行為を続けてどの面下げてクールジャパンなんていうんだ、ということになる。そうなれば日本は世界中の笑いものだ。

 

 

 

 

 

 

6月 12, 2014 文化・芸術 |

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