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2008年5月17日 (土)

津田大介さん「音楽不況なのか」(朝日新聞「異見新言」を読んで

音楽業界に対するありかたに関する論客で業界では知る人ぞ知る津田大介さんが本日の朝日新聞「異見新言」にて「音楽不況なのか」というコラムを掲載して非常に興味深く読ませていただいた。残念ながらwebでのリンクが見つからないためだいたいの主旨を短く書かせていただくと

「音楽業界の不況の状況をCDの売り上げだけをものさしにするのは間違っている。実際には音楽配信を始めとするその他の売り上げは伸びており、音楽の需要は寧ろ伸びている。メーカーは多様化しているニーズに対応していないのと、CCCDを始めとした音楽ユーザーを敵に回す行為で消費者離れを起しているのが問題だ。」 

というのが大まかな主旨である。

私もこのブログを通じて日本の音楽業界の諸問題を論じてきたし、CDが売れない原因をネットのユーザーの不法コピーだけにするのは誤りだ、寧ろ根本的には音楽業界のマーケテイングミスや真の音楽ファンを大事にしなくなった点が最も大きな原因であると繰り返し論じてきた。またネットが本格的に普及した時点で、時代に対応しない旧態依然のビジネスのやりかたに固執する音楽業界のありかたも批判してきた。

だから勿論津田さんのこのコラムでの考えを原則的に、基本的には賛同する但し津田さんのように今後の音楽業界の収入の機軸を音楽配信を中心にする、という点に案しては最近私はやや懐疑的になりつつある。というのはコンテンツは無料であるべき」という考え方は確かにネットユーザーの中に厳然と存在するからである

だいぶ前の集計データだが「コンテンツにお金を支払うか」という点では既に7年前にジャパンインターネットコムがリサーチしており、「6割のユーザーが良いものならお金を払う」と解答しているが、逆に4割はいかなる場合でもコンテンツにはお金を払わないと回答。 コンテンツにお金を払うかどうかについては本質的にはほぼ半々といってよい。
http://japan.internet.com/research/20010517/print1.html

そしてそもそもその「音楽配信が伸びている」というのもレコ協のデータを良く見ると
http://www.riaj.or.jp/release/2008/pr080221.html

これによると754億円のうち680億円(つまり90%)がいわゆるモバイル(携帯)用の着うたの売り上げである。

いわゆるネットの純粋な意味での「音楽」の配信は59億円と全体の8%にも満たない。だから確かに伸び率は二桁ではあるがこのデータを持って「音楽配信市場が急成長」というのは正直しっくり来ない。 というのもこれは音楽をあくまで文化というよりはツールとしての使い方であり。また「ツール」以外の音楽配信は30%伸びているといっても元々の数字が小さすぎて、当たり前だがCD売り上げの落ち込みをカバーできるようなレベルではない。だからこの数字を持ってもし「これで音楽配信がCDにとって変わることが証明された」かのように考えている向きがあるとしたらそれは早計であると思う。

また映像に関してはもっとシビアなデータもある。i-tunesでもビデオ配信、映画配信を始めた、だからDVDの時代はもう終わったので日本の電気メーカーのDVDの戦略と規格の競争自体はナンセンスであり、もはやDVDは無用の長物である」、などと一部のITジャーナリストが云っているのを聴いたことがある。しかしおそらくそういう人は劇場で映画を見たり、ブルーレイのハイビジョン高画質で映画を見た経験のあまりない人だろうまさかm-peg4の画像がブルーレイの画質に勝るとでもいうのであろうか?

そういうコンテンツ配信の未来を信じる人にはショッキングなデータがある。2年前の日経新聞の「ねだんの力学」という特集の第3回目で映像・音楽配信 手ごわい無料の「常識」(日本経済新聞2006年1月12日朝刊、第11面)にこんなデータがあった。

記事の中にこんな一文がある:

「いくらなら映像配信サービスを利用しますか」。東映などが昨年9月設立した映像配信会社、シネマプラス(東京・中央)がサービス開始前に実施した調査結果を見て折坂哲郎社長は「軽い目まいを覚えた」。回答の大半は「0円」(!!)。経費が見えにくいネット流通の難しさを痛感した。

映像コンテンツにお金を払わない、というのはyoutubeの影響もあるかもしれない。しかしアメリカでは映画に配信ビジネスを本格的に考えているが、この辺りは日米と大きく違うかもしれない。事実こんな記事もある。

■日米で異なる映像配信ビジネスモデルの行方
http://japan.cnet.com/column/mori/story/0,2000055916,20094386,00.htm

日本人は元々形のないものはお金を払わない傾向がある。そうした傾向がビジネスのありかたに大きく違いを出すかもしれない。(中国などはもっとひどいだろうが..) いずれにせよIT業者のよくいう「アメリカでうまくいっているんだから」という奴がいたら、それは日本のマーケテイングをきちんとしていない会社と考えて間違いない。そう、彼らが考えるほど話は単純ではない。

ネットを始めとするデジタルの世界は地球全体をフラットにする、といわれる。これは言うなれば「情報」や「コンテンツ」の単価を著しく下げることになり、業者間の競合の関係上ユーザーへの浸透を意識した価格(=低価格)を設定することを余儀なくされる。特に前述のようにコンテンツは無料であるべきという考え方が根強いネットでは、それによりどんどん下がる価格が、さらにユーザーの「デジタルコンテンツ=無料」という意識を煽るという悪循環に陥ることも考えられる。(というか現実に今起き掛けている)

コンテンツを自由に取り扱いたいと考えるIT業者は「それが市場の要求だ」などというかもしれない。だが彼らは重要なことを忘れている。それは音楽を始めとして「コンテンツは物品ではない」ということである。クリエイテイヴな手作りのソフトウエアであり、文化である。価格が下がればクオリテイは必ずといっていいほど下がるものなのだ。従って「デジタルコンテンツ=無料」はコンテンツの質を低下させ、結果としてコンテンツビジネスそのものを崩壊させてしまう、つまり「デジタルコンテンツ=無料」という意識はIT業者にとっても最終的には自分で自分の首を絞めるということになるのだ。そこを理解していない人間があまりに多すぎる。何よりも「デジタルコンテンツ=無料」という意識は知財、知的所有権そのものを否定することにもなり、これはこれで世界的なビジネストレンドに逆行するものでもある。

それを考えると配信事業は開始当初からデフレスパイラルに陥ることが予想され、その面で配信事業を機軸に置くというのはマーケテイング戦略として必ずしも正しいとはいえないかもしれないのだ。寧ろ、パッケージのありかたやアーテイストのグッズにいたるまで、音楽の商材のありかたを全般的に見直した方が得策かもしれない。なぜならビジネス、マーケテイング戦略の根幹は「いかに付加価値をつけたものを市場に出すか」ということであり、コンテンツを無制限に安売りすることではないはずだ

津田さんのような論客は今の音楽業界にもっと必要なのは論を待たない。しかし私はもう少しバランスの取れた広い視野で音楽業界を論じていきたい。


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